幼い頃からヤマハの音楽教室に通い、国立音楽大学の付属中高、そして大学とクラシック音楽をベースに学んでこられ、大学卒業後にはニューヨークへ渡りマンハッタン音楽院に留学。2016年、アメリカの老舗にして最も権威あるジャズ専門誌のひとつ「ダウンビート」で、「ジャズの未来を担う25人」に選ばれるなど、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの挾間美帆さん。現在はオランダのメトロポール・オーケストラとデンマーク・ラジオ・ビッグバンド(DRBB)という2つのヨーロッパの伝統あるジャズの楽団を率いるなど、国内外のジャズの楽団に指揮者・作曲家としてポストを持ち、世界を股にかけて活躍されています。
2019年から首席指揮者を務められているデンマーク・ラジオ・ビッグバンド(DRBB)と今年3月に録音した最新アルバム「イマジナリー・ヴィジョンズ」がリリースされ、そのことについてお話を伺いました。
―――――今回録音されたDRBBとの最初の出会いは、2017年の東京JAZZということですが、最初のお互いの印象、そして2019年の首席指揮者就任に至るまでの経緯を教えていただけますか?
東京JAZZのプロジェクトは、多数のゲストを交えてジャズレコード100年の歴史を1時間で辿るという、ある意味無謀なテーマでした。しかも全員揃ってのリハーサルは本番前の一日だけ。DRBBにとって、私と会う前の印象は「全然知らない日本人が指揮するらしいけど、大丈夫?」だったと思います(苦笑)。私自身はその数ヶ月前に彼らのライブを見に行っており、 素晴らしいビッグバンドだということを理解していたのですが、初めて面と向かって挨拶したときの、皆の不安そうな空気は忘れられません(笑)。私が彼らと初めて一緒に演奏したときの印象は「この人たち賢いな」です。幅広い音楽性に合わせながら、カオスな現場においても落ち着いてしっかり演奏で支えてくれたのはとても助かりました。
――――ヨーロッパには他にも現在も人気のビッグバンドが多くあり定着している印象ですが、デンマークでコンサートされたときのお客様の反応はどんなものでしたか?また、客層はどうですか?
バンドメンバーもそうであるように、新しい音楽にも抵抗なく接してくれる印象です。客層が若いとは言えないですが、それでも新旧に関わらずバンドの演奏に興味を持ってくださっていると思います。若いお客さんも、少しずつ増えてきているように感じます。それから、人種や性別について指摘されるようなことはほぼありません。多様性に対して寛容だと感じます。
――――今回収録している7曲はすべてご自身のオリジナル作品ですが、ビッグバンドの醍醐味とも言えるダイナミックな音の魅力から、ピアノが印象的なメロウな曲など多彩な楽曲で構成されています。これは具体的にDRBBのメンバーを想定し、彼らからインスピレーションを得て書かれたものですか?
そうですね。まずサクソフォンセクションは、サクソフォンだけでなく、持ち替え楽器(クラリネットやフルートなど)に特化したメンバーが揃っていますので、その部分にも気を配りました。
トランペットは、上のパートの3人がとても明るい音をしています。特に明るい音色を持つレギュラー・リードトランペット奏者を想定して書いたのですが、彼が耳の病気で参加できなくなってしまいました。突然の交代がいくつかあったセクションなのですが、代わりの人も含め本当に頑張ってくれました。
トロンボーンセクションは、素晴らしいソリスト、サド・ジョーンズ監督時代からの名物奏者、色の強い低音奏者など、とても個性豊かなセクションです。それぞれの特性を活かしてバランスをとらないとセクションとして聞こえづらい時もあるので、常に気をつけています。
リズムセクションは、絶妙なバランスで成り立っている4人組です。ドラムが普通のジャズとは少し違う大きい楽器を使って演奏していますし、ピアニストにも独特の弾き方があり、そこにギターとベースがうまく馴染んでいく、というイメージ。この4人組を母体としてこのアルバムがどのくらいの色彩感を持たせられるのか、というコンセプトをベースに置いてアルバム全体の作曲をしています。
――――挾間さんは、クラシックとジャズを学校で学び、現在はジャズ作曲家としてだけではなく、クラシックの編曲やポップスや歌謡曲などのアレンジも手がけてらっしゃいます。
幅広いジャンルでご活躍されるのは、ご自身の試聴体験も影響されているのかなと想像します。
転機となったCDやレコードなどがありましたら教えていただけますか?
転機といいますか、ジャンルに関係なくバイブルのようなアーティストがいますので、挙げておきます。
Earth Wind and Fire
Michael Jackson
Ottorino Respighi
Maurice Ravel
Leonard Bernstein
Herbie Hancock
Maria Schneider
Vince Mendoza
Björk
山下達郎
椎名林檎
Perfume
――――今後さらに挑戦していきたいことや、計画などありますか?
クラシック音楽を長く学んできたので、オーケストラとジャズが融合するようなプロジェクト、それからジャズ作曲家として視覚コンテンツとのコラボレーション(映画、映像、ダンスなど)にも、もっと挑戦してみたいです。
最新盤
挾間美帆 フィーチャリング デンマークラジオ・ビッグバンド / イマジナリー・ヴィジョンズ
詳細はこちら→ https://www.kinginternational.co.jp/genre/kkj-163/
プロモーション動画はこちら→ https://youtu.be/26PJuYVikKc
挾間美帆(Miho Hazama) 作・編曲
2012年、『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』リリースによりジャズ作曲家として世界デビューを果たす。2015年に2枚目のアルバム『タイム・リヴァー』をリリース。2016年には米ダウンビート誌の「未来を担う25人のジャズアーティスト」にアジア人でただ一人選出され、2019年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100」に選ばれるなど高い評価を得る。3作目のアルバム『ダンサー・イン・ノーホエア』は、2019年米ニューヨーク・タイムズ「ジャズ・アルバム・ベストテン」に選ばれ、米グラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンブル部門ノミネート。
2017年シエナ・ウインド・オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンス、2018-19年オーケストラ・アンサンブル金沢コンポーザー・オブ・ザ・イヤー、2019年からデンマークラジオ・ビッグバンドの首席指揮者、2020年8月からオランダの名門メトロポール・オーケストラの常任客演指揮者に就任。
【主な受賞歴】
2011年 ASCAPヤングジャズコンポーザーアワード
2011年度 文化庁新進芸術家海外研修制度研修員
2012年 『ジャズ・ジャパン』誌年間アルバム大賞(新人賞)
2014年 第24回出光音楽賞
2015年 BMIチャーリー・パーカー・ジャズ作曲賞
2020年 服部真二音楽賞Inspiring Coach
Official Website