★2016年ザルツブルク復活祭音楽祭のライヴ映像。ザルツブルク復活祭音楽祭はカラヤンが1967年に創設した音楽祭。2013年からはカラヤンのアシスタントをしていた経験をもつ現代最高峰の指揮者のひとりクリスティアン・ティーレマンが芸術監督を務め、シュターツカペレ・ドレスデンがレジデント・オーケストラとして音楽祭の新たな歴史を作っています。2016年11月には同音楽祭を率いてティーレマンが来日公演を行ったのは記憶に新しいところです。
★2016年ザルツブルク復活祭音楽祭のメイン・プログラムは、没後400年を迎えたシェイクスピア原作のヴェルディの歌劇「オテロ」。当初のキャストには、オテロをヨハン・ボータ、イアーゴをディミトリ・フヴォロストフスキーが名を連ねていましたが、両名とも病気のためキャンセル(その後ヨハン・ボータは惜しくも死去)したため、ホセ・クーラとカルロス・アルバレスに交代となって上演されました。演出は2015年新国立劇場新制作オペラ「椿姫」で注目されたフランスの気鋭演出家ヴァンサン・ブサールとヴァンサン・ルメール。ベールで覆われた舞台に美しい映像が映り込むというなんともエレガントな冒頭。そしてオテロの孤独、嫉妬、焦燥感、デズデモーナの苦悩と言ったそれぞれの心情を巧みに描き出しています。衣装はファッションデザイナーのクリスチャン・ラクロワ。華やかで極彩色を得意とするラクロワの鮮やかな衣装も見どころ。
★特筆すべきはホセ・クーラ。キャスト交代という必ずしもベストの状態ではなかったかもしれませんが、そこはさすが1997年のオテロ・デビューから何度となく出演しているだけあって、安定した歌唱を聴かせてくれます。年を老うごとに貫禄が増し、まさにはまり役。そして先日グラミー賞も受賞したドイツの名ソプラノ、ドロテア・レシュマンの情感豊かで繊細に歌い上げるデズデモーナも必見です。またイアーゴ役のカルロス・アルバレスも圧倒的な迫力で存分に歌い上げています。ティーレマンの柔軟かつ繊細な音楽作り、そしてオケの熟成された豊かな響きと完璧なアンサンブル、ティーレマンのオペラ指揮者としての力量とその音楽性をあらためて感じる上演となっています。