★アルフレート・ブレンデルも「私が出会ったなかで最高に美しい演奏だ。私は彼のために時間を作らなくてはならないと思った。」と称賛を惜しまない新鋭ピアニスト、キット・アームストロング。2016年秋にはブロンフマンの代役を務め、ティーレマン&ドレスデン・シュターツカペレとベートーヴェンのピアノ協奏曲を演奏し日本でも注目を集めました。1992年ロサンゼルス生まれの彼は、2013年にフランスの教会を購入し、地域の人々と交流しながら演奏や作曲活動を行い、さらには数学や物理学、生物学の分野でも才能を発揮する多才な人物。
この映像は2016年コンセルトヘボウ・アムステルダムで行われたソロ・リサイタルの模様を収録したもの。プログラムの前半は、ヴァージナル音楽の作曲家ウィリアム・バード、ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク、ジョン・ブル。後半には、J.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を取り上げました。16世紀前半のイギリスのヴァージナル音楽は、のちのバロック音楽に大きな影響を与えています。技巧的でメランコリックな巨匠バードの変奏形式は、イギリスからオランダへ亡命したブルがスウェーリンクへと影響を与え、スウェーリンクから北ドイツ・オルガン楽派そしてバッハへと受け継がれます。高い知性と溢れだす表現力をもつ彼ならではの絶妙なプログラミングと言えるでしょう。
16世紀イギリスの変奏形式グランドを用いたバードの代表的なヴァージナル作品「ヒュー・アシュトンのグランド」。ルネサンス末期からバロック初期にかけて活躍したオランダの作曲家兼オルガニストのスヴェーリンクのドイツ語の民謡にもとづく主題と6つの変奏曲から成る「我が青春は過ぎ去りし」。そしてブルのイングランド東部ノーフォークの巡礼地ウォルシンガムの民謡に基づく変奏曲。ヴァージナル音楽特有の明るさと哀愁という相反する音楽性を上手く表現しています。そして幼少期から弾きこんでいたというJ.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」。彼の美しいタッチから紡ぎだされる音、そして音楽を的確に捉えた知的な解釈は、発見に満ちた新鮮な演奏を聴かせてくれます。