★1992年より長野県松本市で毎年夏に開催してきた『サイトウ・キネン・フェスティバル松本』(SKF)は、2015年より『セイジ・オザワ 松本フェスティバル』(OMF)として新たなスタートを切りました。名称変更後もSKFからの母体であるサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)の優れた演奏はもちろんのこと、小澤征爾総監督のもとに世界的指揮者、演奏家、出演者たちが松本に集まります。
この映像は、新たなステージに踏み出した2015年とSKFから通算し開催25回目となった2016年の小澤征爾指揮によるライヴ収録。傘寿を迎えた小澤征爾の円熟の演奏が収められています。
まず名称が変更され、記念すべき第1回となった2015年のセイジ・オザワ 松本フェスティバル。15年ぶりに松本でベートーヴェンの交響曲第2番を小澤征爾が指揮したコンサートの映像です。交響曲第2番は、難聴が悪化し、あの「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれたのとほぼ同時期に作曲されました。
第3番「英雄」の影に隠れていますが、熱き筆致と豊かな表情を持った楽曲。古典派の枠をはみ出してゆくベートーヴェンの音楽性を示した作品で、小澤征爾渾身の演奏を披露しています。
そして2016年のベートーヴェン交響曲第7番。この曲も松本で演奏するのは23年ぶり。ベートーヴェンの交響曲の中でも最も勢いのある生気に満ちた楽曲。第6番「田園」を完成させ、3年のブランクの後に書きあげたのが7番。その間にベートーヴェンは体調の悪化や生活の苦しさ、失恋など苦境に立たされていましたが、徐々に生きる力を取り戻し、私生活及び創作活動に新たな道を歩み始めたベートーヴェンの心情があらわれています。特徴的なリズムが繰り返され、小澤征爾の力強い指揮とSKOの活力溢れる演奏で生き生きとした音楽を展開しています。
これら2つのコンサートはともに小澤征爾の体調を考慮してブラームス交響曲第4番からの演目変更によって演奏されました。ブラームスの演奏を聴きたいファンも多いですが、こうしてオール・ベートーヴェン・プログラムとして一つの映像で観ることができるのは嬉しいところです。
この記念すべき2つのコンサートに加えて、この映像には「マエストロ・オザワ 80歳バースデー・コンサート」の模様が収録されています。2015年9月1日に80歳の誕生日を迎えた小澤征爾。世界のマエストロを祝うために、世界中から一流の音楽家ら総勢300名が集まりました。ここでは、このコンサートのメインであったベートーヴェンの「合唱幻想曲」が収録されています。この日友情出演したマルタ・アルゲリッチ、そしてナタリー・シュトゥッツマンやマティアス・ゲルネといったソリスト陣により演奏され、会場は大いに盛り上がりました。アルゲリッチはこれまで「合唱幻想曲」はレパートリーに入れてなかっただけに、今回映像としてのリリースは初。また最後には出演者全員で「Happy Birthday」を合唱し用意されたケーキのローソクを吹き消すと観客席からは大歓声が巻き起こりました。
◆レコード芸術 2017年11月号 特選盤