★個性的な国際トリオを率いてきたドイツの重鎮が、若手才人を得て遂に始動させたクラシック・ピアノ・トリオ
★2000年代に進んでからは、弦楽器ゲンブリ奏者の歌手+パーカッション奏者とのトリオで、ACTから5タイトルを発表してきたヨアヒム・キューン。アルバムを重ねる中でビッグバンドとの共演ライヴ作やアーチー・シェップをゲストに迎えた編成へと拡大して、実績と名声に安住しない道を切り開いてきました。この間、同トリオ作で《ECHOジャズ賞》の〈生涯達成賞〉、〈最優秀ビッグバンド作〉、〈最優秀ピアニスト〉を連続受賞。またミヒャエル・ウォルニー(p)やアレクセイ・クルグロフ(as)とのデュオ・アルバムの制作によって、新世代の側面支援にも力を注ぎました。
★長年のファンにとってキューンのピアノ・トリオと言えば、80~90年代に「ヨーロッパ最強」と評されたジャン=フランソワ・ジェニー=クラーク+ダニエル・ユメールを思い出すはず。奇しくも2015年に発売された生誕70年記念作『Birthday Edition』は、同トリオの未発表音源が収録されて、大きなプレゼントになったのは記憶に新しいところです。98年のジェニー=クラーク他界によって封印していた編成を、いよいよ再会させたのですから、これはキューンのキャリアにおける一つの“事件”です。
★12曲中8曲をカヴァーが占めていて、それらが要注目。タイトル・ナンバーのM-1“ビューティ・アンド・トゥルース”はキューンが96~2000年に共演し、デュオ作『カラーズ』を残したオーネット・コールマンの楽曲で、2015年に逝去した偉人へのオマージュが滲むピアノ独奏です。ポーランド・ジャズ史上最大の重要人物であるクシシュトフ・コメダの名作『Astigmatic』(65年)の録音場所にキューンが立ち会ったことに由来する、同作収録曲のM-11“カットーナ”では、テンポの変化をつけた力強いピアノ演奏に魅了されます。M-12“ブルース・フォー・パブロ”はギル・エヴァンスがマイルス・デイヴィス『マイルス・アヘッド』に提供した名曲。“ニュー・トリオ”のクレジットに相応しい新鮮さに溢れています。
★ファンにはお馴染みのマシンガン奏法を織り込みながらも、これまでに率いたどのトリオとも異なる現代的なサウンドが印象的。キューン自身が“ニュー・ドリーム・チーム”と呼ぶ新生トリオの、今後の発展も期待させてくれるデビュー作です。