★ベルリン古楽アカデミー、ラウテン・カンパニー、フライブルク・バロック・オーケストラで活躍する奏者たちによって2021年の結成されたピリオド楽器アンサンブル、e.g.batoque(エー・ゲー・バロック)のCDデビュー・アルバムです。二人の俊英カウンターテナーをゲストに迎え、17世紀ドイツの作曲家ダーフィット・ポーレの声楽曲という世界初録音となる珍しいレパートリーを録音しています。
★1625年マリエンベルク生まれの作曲家ダーフィット・ポーレは、おそらくドレスデンにおいて、ドイツ・バロック初期の巨匠ハインリヒ・シュッツに学んだとされています。師であるシュッツとは生涯に渡り良好な関係を保ち、シュッツはポーレの子供の代父(名付け親)にもなっているようです。ポーレは数多くの作品を残したようですが、現在ではその多くは失われてしまっています。
★パウル・フレミングの詩による「12の愛の歌」は、1650年にポーレが仕えていたカッセル宮廷での雇い主であった、ヘッセン=カッセル方伯ヴィルヘルム6世へ捧げた最初の作品でした。当時人気のあった詩人パウル・フレミングの詩によるこのドイツ語の歌曲は、二人の歌手と2つのヴァイオリンと通奏低音のために書かれていて、愛、喪失、痛み、幸福、決意、禁欲といった内容を歌っています。ドイツ・バロックの録音は、現在でも教会音楽中心で、宗教世俗音楽が取り上げられることは少ないので、大変貴重な録音になります。ポーレが、シュッツが取り込んだイタリア音楽の要素をどのようにドイツ語のテキストに適応させているのかといった作曲技法の点でも注目です。
★またアルバムにはポーレの作品をはさんで、同時代の作曲家ヨハン・フィリップ・クリーガーのトリオ・ソナタ1曲を収録しています。イタリアにも赴き、その最新の作曲技法を学び、トリオ・ソナタや鍵盤音楽など、質の高い音楽を残したクリーガーの作品も聴きどころになるでしょう。
★ドイツの若きカウンターテナー、ベンヤミン・リコ、とauditeでの録音も多い実力派カウンターテナー、アレクッス・ポッターの二重唱、そしてバーゼル・スコラ・カントールムで学んだ鍵盤奏者クレメンス・フリックが、主にドイツの優れたピリオド楽器グループで活躍するメンバーを集めて2021年に結成したe.g.baroque(e.g.とは、現在では英語でも用いられるラテン語のexempli gratiaの略で、日本語では「例えば」に当たります)による演奏も楽しみな1枚となるでしょう。
★CDの装丁には、フェルメールの「手紙を読む女」の2021年の修復後の画像が使用されています。修復後に発見されたキューピッドが描かれた「画中画」により、女性が読んでいる手紙の内容が恋文であるという可能性が濃厚になってきました。CDジャケットだけでなく、ブックレット全体にもこの絵画がうまくあしらわれていて、ポーレの歌曲の内容を連想させるようなすてきな装丁になっています。
トレイラーはこちら→
https://youtu.be/zKBTVwPkLRY