★ワルターは1939年、63歳でアメリカに移住してから、しばしばメトロポリタン歌劇場でオペラ上演の指揮をしました。1941~46年の間に特に集中的に出演、≪フィデリオ≫(7回)、≪売られた花嫁≫(4回)、≪ドン・ジョヴァンニ≫(9回)、≪オルフェオとエウリディーチェ≫(2回)、≪魔笛≫(17回)、≪フィガロの結婚≫(6回)、≪運命の力≫(8回)、≪仮面舞踏会≫(10回)を指揮しています。その後は51年に≪フィデリオ≫(5回)を指揮してからメット指揮活動から引退したものの、56~7年に「モーツァルト生誕200年記念公演」に復帰して≪魔笛≫(7回)を指揮しております。本ディスク(1942年3月7日のライヴ)はメットでの≪ドン・ジョヴァンニ≫初演からちょうど1年後の記録です。
★歌手陣はタイトル・ロールに当時メットで人気が沸騰していたイタリア出身の名バス歌手ピンツァ、レポレッロには「ボリス・ゴドノフ」役で有名なロシア出身のキプニス、ドンナ・エルヴィーラにチェコの美人ソプラノ・ノヴォトナ、 ツェルリーナにはブラジルが生んだコロラトゥーラの名手サヤン、ドンナ・アンナにはアメリカのバンプトンを配し国際色豊かな顔ぶれ。特にピンツァはこの役が一世一代の当たり役で、豊麗な美声と端麗な容姿を披露してします。
★ワルターの指揮は「窓辺のセレナーデ」(ドン・ジョヴァンニ)や「ぶってよマゼット」(ツェルリーナ)などの名アリアではやわらかく抒情性あふれる音色や暖かく優美な響きで包み込みながら、一転して地獄落ちの場面ではフルトヴェングラーの名演と比較されるほどの劇的緊迫感がみなぎる激しい感情の爆発!このオペラの持つ2つの側面、「シャンパンのアリア」(ドン・ジョヴァンニ)や「カタログの歌」(レポレッロ)に代表される“喜劇”の面、ドンナ・アンナの復讐劇や地獄落ちの場面に代表される“悲劇”の面の両面をワルターはなんと的確に描き分けていることでしょう。
★1999年にベストセラーとなった文春新書『クラシックCDの名盤』のなかで、宇野功芳氏はこの演奏盤を採りあげ、つぎのように紹介しています。
モーツァルトの歌劇の中で、いちばん飽きが来ず、それどころか聴けば聴くほど魅力を増すのは≪ドン・ジョヴァンニ≫であろう。そして、一度でもこのワルター盤の洗礼を受けた者は、激しい感動と興奮の渦から抜け出すことは決してあるまい。フルトヴェングラーの方がいい?とんでもない。同じライヴでも、ワルターに比べてなんと重く、なんと生ぬるいことか。もちろん欠点はたくさんある。録音が古い(1942年)。歌手のスタイルも古い。チェンバロの代わりにピアノが使われている。だが、そういうことをあげつらって、このCDに耳を傾けないとしたら、これ以上もったいない話はあるまい。
ワルターは本来ドラマの人であり、オペラの人である。彼の音楽は温かいが迫力不足だ、という人もいるが、一度かぎりの実演では情熱のたぎり立つような凄演を示すことも少なくなかった。その最上の例が≪ドン・ジョヴァンニ≫で、基本テンポはおどろくほど速く、そのたたみこんでゆく緊迫感は比類もない。凄まじい嵐のような表現が聴き手におそいかかる一方、優しい場面のデリケートなニュアンスも最美だ。<宇野>
『クラシックCDの名盤』(宇野功芳 中野雄 福島章恭 共著 文春新書 1999年刊)
★ラジオ中継のアナウンスもノーカットで収録した完全盤。幕の間の休憩はともかく、幕中は途切れなしに収録されており、歌手陣が名アリアを披露した後の観客の長い拍手や歓声もアナウンスが被さるように入るまで続き、会場からの実況中継を聴いているような雰囲気になります。
この頃の放送録音としてはきわめて明瞭で良好な音質。ノイズも少なく聞きやすいレベルです。従来の海外盤のいずれにも勝るとも劣らない音質が最新リマスターとUHQCD化によってさらにパワーアップ!ワルター・ファンならずとも必携必聴のモーツァルト≪ドン・ジョヴァンニ≫(1942年)、初登場の国内盤をご堪能ください。
★台詞の場面も含む歌詞・対訳をトラックNoも入れてPDFファイルで弊社HP(WEBサイト)に掲載します。プリントアウトも可能です。(ブックレットに記載するパスワードを入力してください)
*こちらには歌詞対訳が付いておりません。ブックレット中のパスワードで弊社ホームページにてPDFをダウンロードできます。
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