★HMF注目の新シリーズが始まりました!ポール・アグニューとレ・ザール・フロリサンによる、J.S.バッハのシリーズです。J.S.バッハが生きた時代と都市を通して、その創作の遍歴をたどるというもの。第1弾は、北ドイツの教会音楽の伝統に忠実でありながら、すでに強烈なオリジナリティを発揮していた若き巨匠に焦点を当てます。レザール・フロリサンの声楽のやわらかな美しさはもちろんのこと、シンフォニアなど器楽曲での美しくも胸をうつ格調高き音楽は必聴。声楽と器楽のアンサンブルも、よい意味で古の薫り高き美しさ。また新しいカンタータ名演シリーズの誕生に心躍ります。
★バッハがカンタータBWV 106を書いたのが1707/08年、カンタータBWV 4を書いたのは1708年ないしそれ以前、そしてBWV 150を書いたのも1708年以前とされています。つまり3作品ともバッハのアルンシュタット時代(1703/4-1707)あるいはミュールハウゼン時代(1707-1708年末)ということで、バッハのきわめて初期の段階の作品。同じテキストをもつクーナウの作品や、関連のあるコラール(同じくバッハの鍵盤作品を年代順におって録音するプロジェクトを進行中のアラールが演奏)も収録されているのも注目です。ブックレットにはアルンシュタットやミュールハウゼンの写真も掲載されており、実に興味深い内容です。
★ポール・アグニューの言葉(ブックレットより)~ヨハン・クーナウのカンタータ『キリストは死の縄目につながれたりChrist lag in Todesbanden』を取り上げたのは、バッハ自身の作品に何らかの文脈を与えることを期待してのことだ。この作品を書いた1693年当時、クーナウはすでにライプツィヒのトーマス教会でオルガニストを務めており、1701年にシェレが亡くなるとカントールに就任し、1722年のクーナウの死後はバッハ自身が後任となった。同じテキストである「Christ lag in Todes Banden」の2つの曲を聴き比べたくなったのは言うまでもない。バッハは幼い頃からクーナウのオルガン作品を知っていただろうし、彼らは1716年(それ以前でなければ)にハレで出会い、新しいオルガンを一緒に検討した。冒頭のソナタは墓の陰鬱な雰囲気の中で始まり、第2楽章では器楽アンサンブルのエネルギッシュな伴奏の中でコラールが歌われるが、第4楽章からクーナウはコラールの旋律を捨て、器楽がアンサンブルの声部を巡り、最終楽章では擬似フーガ的な楽章で旋律に戻るという、歌のようなセッティングになっている。興味深いことに、クーナウもバッハと同様、作品に「SDG」(Soli Deo Gloria)と署名している。1723年のライプツィヒでの最初のクリスマスに演奏されたマニフィカトや、1724年の最初の復活祭に演奏された聖ヨハネ受難曲は言うに及ばず、バッハの高度に練り上げられ、発展した成熟した作品を、クーナウの古風で比較的単純な作風に慣れていた聴衆はどう思っただろうか。しかし、私たちは先を急ぎすぎている。バッハはまだ成熟していない。アルンシュタットに到着したときは18歳、ミュールハウゼンを離れてワイマールに向かったときはまだ23歳だった。