★巨匠の有名な「ローマの指環(1953)」が実現したきっかけは、1年前に行なわれたこの演奏会形式の放送録音でした!この演奏の出来に満足したフルトヴェングラーは、翌年《指環》全曲をRAI(イタリア放送協会)放送用に演奏会形式で上演するにいたるのです。
《指環》の主要構想が要約されている《神々のたそがれ》第3幕、この録音は歌唱陣がフラグスタート、ズートハウス、グラインドルと、顔ぶれも豪華。歌唱・演奏ともに1年後の全曲盤を凌いでおり、フルトヴェングラーの遺産として大いなる価値があります。
★1982年、(市販)世界初出LPとなった伊チェトラ盤。ミラノ、ディスコス社制作のこの音源をキングレコードは84年に国内発売しましたが、CDは未発売のまま、マスターテープは倉庫に眠っておりました。今回、このアナログテープ(2トラック、38cm/秒)から初のCD化!もとの音源はRAI放送用ディスク(アセテート盤)らしく、スクラッチノイズも残っていますが、音質自体は録音年を考えれば良好です。さらに今回、LPは2枚組でしたが、1CDに長時間収録。日本語解説書(岡俊雄、浅里公三、両氏のライナーノーツ10,600字)付。歌詞対訳は弊社ホームページ(Webサイト)に掲載します。
★「1953年のローマ放送の《指環》についてはフルトヴェングラーは親友の画家であり舞台装置家であったエミール・プレトリウスへの手紙(53年2月25日付)で、こう書いている。“ローマでは、ニーベルングの指環全曲をラジオで指揮し、およそこれまで人間の作った最大の曲であることを再認識いたしました。オラトリオとしてさえ、この音楽は比類のないものです。”(仙北谷訳《フルトヴェングラーの手紙》白水社版、1972)
ワーグナーの楽劇を演奏会形式で行った場合、フルトヴェングラーがオラトリオといっているのは興味深い。このことは、《神々のたそがれ》の第3幕のみを単独にとりあげたときにとくにその感を深くするのは、この場に《指環》の主要構想が要約されているからでもあるだろう。冒頭、ジークフリートが三人のラインの乙女との出会いで指環にまつわる物語が回想され、ジークフリートの死をはさんでの、ブリュンヒルデの自己犠牲という壮烈なクライマックスから、ワルハラの炎上の大詰めまでのはこびを、フルトヴェングラーは、歌手の”大げさな身ぶり“にわずらわされることなく、悠然たるテンポで、じわじわクライマックスにもりあげてゆく。その長丁場に持続された音楽的緊張感の与える感動は余人の許さぬものだといえる。
フルトヴェングラーがのこした二つの《指環》の全曲、即ち1950年ミラノ・スカラ座、1953年ローマ放送のそれとくらべると、キャストが異なっており、二種の全曲盤のもっともすぐれた歌手がここに集められている。ブリュンヒルデのフラグスタートは極めつきといえるもので、スカラ座録音の動きをともなった演唱よりも内面的な集中力を感じさせる。(53年ローマ放送録音のマルタ・メードルも好演であったが、フラグスタートの役柄への読みの深さには及ばない)。ジークフリートはスカラ盤のマックス・ローレンツより4歳若いズートハウスだが、この録音のとき48歳、8歳若いヴィントガッセンに与えた影響を感じさせる柔軟性を示している。ハーゲンは53年盤と同じグラインドルだが、その役柄の強直さで50年盤のルートヴィッヒ・ヴェーバーに優り、50年盤と同じグンターのヨーゼフ・ヘルマンは53年盤のアルフレッド・ペルとはまた異なった人間味を見せている。3種類のこされた《神々のたそがれ》の第3幕のフルトヴェングラー盤のなかで、キャストのバランスがもっともよくとれた演奏になっていることも特筆に値する。」
(岡俊雄、1984年記 キングレコード発売LP:K20C-383/4より)
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