★ゲルギエフが久々にザルツブルク音楽祭でオペラを振ったことでも話題となったヴェルディの≪シモン・ボッカネグラ≫の映像。演出は、斬新な方法で人々を驚かすドイツ演劇界の鬼才クリーゲンブルが手掛けました。
≪シモン・ボッカネグラ≫は、ヴェルディが43歳のときに書いた20番目のオペラ。14世紀のジェノヴァに実在したシモン・ボッカネグラを主人公とし、政治的な背景や人間関係が複雑に入り組んだ人間ドラマ。さらには、男声低音3人とテノールとソプラノの5人の実力者の歌手を揃えなければならないことから、難易度の高い作品と知られ、ザルツブルク音楽祭でも、20世紀を代表するイタリアのバリトン歌手ティト・ゴッビがタイトルロールを歌った1961年以来の上演となります。
今回その重要なシモン・ボッカネグラを歌うのは人気イタリア人バリトン歌手のルカ・サルシ。海賊の豪快さと政治家としての器の大きさ、そして娘に注ぐ父親の慈愛という3つの個性を要求される難しい役。演技、歌唱で見事その多面的な役柄を演じて見せます。
演出は、登場人物はスーツを着て、携帯電話をもちSNSを操るという現代的背景を用い、一方では父娘の再会のシーンでは普遍的な親子の愛情を巧みに描いています。娘アメーリアを演じたラトヴィア出身のソプラノ、マリーナ・レベカの歌唱も必聴。指揮者のゲルギエフは、全編を通じて3人のバリトン及びバス歌手の低音の魅力を聴かせる作品らしく、低弦部の配置を真ん中にし、圧巻の低音を作り出しています。
実はこの夏のゲルギエフのスケジュールは大変過密で、バイロイトでは≪タンホイザー≫、ザルツブルクでは≪シモン・ボッカネグラ≫、ヴェルビエ音楽祭、PMFと掛け持ちしていた。しかしバイロイト当日、母危篤の知らせを受け初日を降板(代役はティーレマン)、郷里へ戻り母を看取り葬儀に参列したのち、ザルツブルクに戻るという強行軍でした。
ゲルギエフの溢れんばかりのパワー、そして鬼才クリーゲンブルの刺激的な現代演出、重厚な歌手陣と見逃せない上演となりました。
◆レコード芸術 2020年9月号 特選盤
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https://youtu.be/GJVcTYrc5gs