★2020年アン・デア・ウィーン劇場の新シーズン開幕を飾った演目、レオンカヴァッロの歌劇《ザザ》。作曲と台本を作曲家自身が手がけた全4幕からなるオペラで、レオンカヴァッロ特有の儚く美しい旋律にあふれた魅力的なオペラです。レオンカヴァッロは代表作《道化師》の成功の前に、パリのミュージックホールでピアノを弾いて生計を立てており、本作の舞台であるパリ郊外のミュージックホールの様子が生き生きと描かれているのが特徴です。《ザザ》は、1900年にミラノのテアトル・リリコで初演。その後レオンカヴァッロは亡くなる直前の1919年に冗長な部分をカットした改訂版を出しています。本上演はその改訂版をもとに、1900年オリジナル版からも部分的に採用して上演しています。
あらすじ
主人公ザザはパリ郊外のサン=テティエンヌにあるミュージックホールの看板女優。そこでパリの実業家ミーリオ・デュフレーヌと出会い二人は恋人となる。ザザはミーリオと結婚していずれは劇場を去りたいと考えていたが、舞台仲間で元恋人のカスカールから、パリでミーリオが別の女性と一緒にいるところを見たと聞かされる。怒ったザザはミーリオの家に乱入する、とそこにいたのは一人の少女だった。それはミーリオの娘トトだった。ザザは、ミーリオが妻子がいることを偽って自分に嘘をついていたことに気が付く。ザザ自身も父親が家を捨て出ていき、そのせいで母親が酒浸りになってしまった過去があり、トトに自分と同じ思いをさせてはならないと、二人の関係を終わらせようと決心する。ロマンチックな恋の楽しい思い出はすべて消え去り、ザザは自分の運命を受け入れる。
ザザにはロシアのソプラノ歌手スヴェトラーナ・アクセノワを起用。全編にわたって登場するハードな役どころを、力強くそして華やかに歌い上げています。ミーリオを歌うのは、グラーツ生まれのオーストリアのテノール、ニコライ・シューコフ。いわゆるユーゲントリッヒャー・ヘルデンテノールとしてかなりの活躍をしています。またイギリスの名バリトン、クリストファー・モルトマン演じるカスカールも悲しい役回りですが、高い熱量で舞台を牽引しています。
《ザザ》は現代でもそれほど上演回数は多い作品ではありません。その理由として「あまりにも現実的で、身につまされる人が多い」とも言われているようです。特に、身を引こうと決心したものの未練から「奥さんには全部バラした」とミーリオに告げるザザに対してミーリオが本性を出して激高する場面は、ありふれた現代ドラマのようであります。上演が敬遠される理由はともあれ、レオンカヴァッロの甘美なメロディに彩られた美しいオペラを充実のキャストで鑑賞できる1枚となっています。
◆レコード芸術 2022年5月号 特選盤
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