★2021年4月にウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で上演されたヘンデルの劇的オラトリオ《サウル》の映像がリリースされます。この作品は、1738年の夏に作曲、1739年1月に初演。以降ヘンデルの生前から定期的に上演された当時からの人気作です。大規模な合唱、そして序曲としておかれた「シンフォニー」を始めとする非常に充実した管弦楽パートで書かれており、さらに、オラトリオとはいえ、舞台上で演出つきで上演するための実に詳細な指示も残されています。今回演出を手掛けたのは、各地の劇場で引っ張りだこの演出家クラウス・グート。タイトルロールにはリート歌手としても定評のあるフローリアン・ベッシュ。ダビデには、アーヴィン・アルディティ(アルディッティ弦楽四重奏団)を父に持つ英国のカウンターテナーのジェイク・アルディッティ。サウルの娘メラブには幅広いレパートリーを持つソプラノ歌手アンナ・プロハスカなど注目のキャスト。そして欧州古楽界の名門フライブルク・バロック・オーケストラによる演奏という充実の上演となりました。
★題材は旧約聖書のサムエル記に登場する指導者サウル。英雄ダビデが怪人ゴリアテを倒して戻ってくると、人々はサウルよりもダビデを賞賛するようになります。サウルはダビデに嫉妬し、殺そうとし、魔女の力までをも借りようとするなどしますがそこで現れた亡霊にサウルとその息子ヨナタンの死が予言されます。最後はダビデが人々の先頭に立つこととなり幕となる、という物語。
★クラウス・グートの演出は、人間の嫉妬心や欲望を際立たせるように描いており、激しい嫉妬心に苛まれた王サウルが白い壁に自らSAUL大きく書き残す。それを最後王の座についたダビデがDAVIDに書き換えるという演出は、現代にも通ずる権力者の欲望を醜くも見事に提示しています。
◆レコード芸術 2022年7月号 準特選盤
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