★故郷モラヴィア地方を舞台にしたヤナーチェク三作目のオペラ《イェヌーファ》。モラヴィアの閉鎖的な寒村で繰り広げられる普遍的な人間関係を描いた内容で、ガブリエラ・プライソヴァーの戯曲「彼女の養女」がもとになっています。オペラでは原作の散文風の会話をそのまま用い、美しいメロディーに満ちた、チェコ・モラヴィア地方の民族色豊かな作風です。
★あらすじは、村一番の美人イェヌーファは、従兄弟のシュテヴァの子を未婚のまま妊娠し秘密裏に出産します。一方、シュテヴァの異父兄ラツァはイェヌーファを愛しています。イェヌーファの継母コステルニチカは、シュテヴァにイェヌーファと結婚するよう懇願しますが拒否され、今度はラツァと結婚させるために、赤ん坊を殺してしまいます。コステルニチカはイェヌーファには病死したと嘘をつきますが、イェヌーファとラツァの結婚式の日、赤ん坊の死体が見つかります。すべての真実が明かされ、イェヌーファとラツァは苦難を乗り越え、互いを愛し共に生きていくこと誓います。
愛、絶望、嫉妬、など現代にも通じる人間の様々な感情をリアルに描き出した内容です。
★本上演は、2021年2月にイタリア出身のダミアーノ・ミキエレットによる演出、サイモン・ラトル指揮でベルリン国立歌劇場で上演されたもの。コロナ禍で行われた本上演はライブ・ストリーミング配信もされました。イェヌーファ役にはカミラ・ニールンド。村娘の純粋さと困難を乗り越えていく力強さを感じる歌声です。そしてコステルニチカにはエヴェリン・ヘルリツィウス。バイロイトの常連歌手らしく迫力のある歌唱を聞かせてくれます。そしてイェヌーファを妊娠させ逃げる男シュテヴァにラディスワフ・エルグル。イェヌーファへの愛を最後まで貫くラツァにはオーストラリア出身のスチュアート・スケルトン。と主要キャスト4人の力量が発揮された聴きごたえのある歌唱を披露しています。またヤナーチェクの作品を積極的に演奏してきたラトルならではの色彩的で情緒豊かな音楽を描き出しています。
◆レコード芸術 2022年9月号 特選盤
トレイラーはこちら→
https://youtu.be/SPKhwBjLm3A