★2021年ザルツブルク音楽祭で行われた、ムーティ&ウィーン・フィルによる「ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス」のライヴ映像。1989年にカラヤンが亡くなって以来、マリア昇天祭の祝日(8月15日)の前後に行われるウィーン・フィルの演奏会はリッカルド・ムーティに託されています。ザルツブルク音楽祭の毎年のハイライトである人気公演に80歳となるムーティが選んだ演目は「ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス」でした。ムーティにとって同演目は意外にも初挑戦とのこと。50年以上前から作品については勉強を重ねていたそうですが、作品の偉大さを前に中々演奏することができなかったといいます。しかし、2020年のパンデミックを機に音楽家の使命としてミサ・ソレムニスに取り組むことができ、2021年ザルツブルク音楽祭で初披露することとなりました。
★ベートーヴェンのミサ・ソレムニス(荘厳ミサ)は1819年から5年の歳月を費やして書かれ、同時期には交響曲第9番の作曲も行っており、ベートーヴェン自ら「わたしの最高傑作」と言う晩年の大作。親交の深かったルドルフ大公の大司教就任祝いにこのミサ曲を書き始めましたが、構想がどんどん膨れ上がり結局そのお祝いには間に合わず、就任から4年後にようやく全曲が初演。完成した作品は、カトリックの典礼、ドラマチックな表現力、瞑想的な祈り、賛歌のような表現、古風な要素、交響曲的な構成といったものを一つにまとめ上げた記念碑的な芸術作品となり、ベートーヴェンがミサ曲という枠組みを超える作品を生み出すべく格闘した結果といえるでしょう。
★そして作曲家最晩年の大作であると同時に、解釈が非常に難しいことでも知られる楽曲ですが、それだけに指揮者の力量が問われます。ローザ・フェオーラ、アリサ・コロソヴァ、ドミトリー・コルチャック、イルダール・アブドラザコフの4人のソリスト、そしてウィーン・フィルとともに濃密な演奏を繰り広げ、ムーティが長年畏敬の念を持って接していた作品だけに、作曲上の意図を最大限に表現した見事な音楽を作り上げています。
◆レコード芸術 2022年11月号 準特選盤
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