★2024年のブルックナー生誕200年に向けたティーレマン&ウィーン・フィルによるプロジェクト「ブルックナー11/Bruckner 11」。C majorの映像によるブルックナー交響曲全集は、第5交響曲、そして「習作交響曲」と呼ばれている「ヘ短調 WAB99」と「ニ短調 WAB100」をウィーン・フィル史上初めて演奏・収録した第1弾。ウィーン稿を使用した第1番と2021年8月のザルツブルク音楽祭で演奏された第7番を収録した第2弾。そして第3弾には、2019年にウィーン楽友協会で収録された第2番と第8番がリリースされ、さらにボーナス映像として、ティーレマンと音楽学者のヨハネス=レオポルド・マイヤー氏による対話《ディスカヴァリング・ブルックナー》が各交響曲について収録されており、ブルックナーの交響曲への理解が一層深まり、映像全集完成に向け、ますます期待が高まっています。そして今回発売されるのは、交響曲第3番と第6番のカップリング。
★まずリヒャルト・ワーグナーに献呈されたことから「ワーグナー」とも呼ばれている交響曲第3番。この作品は彼の交響曲の中で最も数多く改訂されたものとして有名であり、ブルックナー自身、彼の協力者、後代の楽譜編纂者によって何度も改訂されています。1872年に第1稿が完成したものの初演は1877年まで持ち越されました。長い年月を要したのは、すでに第2番の初演をめぐって揉めていたウィーン・フィルが、第3番の初演にも躊躇し、この作品を演奏不可能と判断したからです。そして1877年12月16日、ブルックナー自身が指揮をした初演は大失敗に終わり、この時の経験は彼の人生における最大の挫折の一つとなり、修正や改訂は13年後まで続けられ、大幅に縮約され再演された最終稿は成功を収めました。
ティーレマンは本演奏で第2稿(1877年/ノヴァーク版)を使用しています。ティーレマンは版の選択について以下のように述べています。「演奏される機会の多い第3稿(1889年)は非常に簡略化されています。価値ある多くの要素が省略されて、非常に短くされてしまっているので第2稿を使用することに決めました。(中略)第1稿は、私自身は気に入っていますが、ワーグナーに大きな影響を受けつつ彼に捧げることで、ブルックナーは少しばかり自分を見失っていたのかもしれません。しかし第2稿の終わりでは再び自分自身のスタイルを見出したことがよく分かり、最も完成度が高い版といえるでしょう。」また、ブルックナー作品の楽譜の完全全集では独立して出版されている「1876年版アダージョ」は、今後ウィーン・フィルと録音する予定もあるとのこと。
★そして第3番と反して殆ど改訂されていない交響曲第6番。当時第4番の成功で背中を押されていたブルックナーでしたが、ウィーンの聴衆の反応は冷ややかなものがあり、彼の存命中には全曲演奏されることはなく(ウィーン・フィルが第2・3楽章を部分初演)、ブルックナーの死から2年後、グスタフ・マーラー指揮により、短縮版が演奏されただけでありました。とはいえこの第6番は、ブルックナーの全作品中、最も霊感と魅力に満ちた瞬間を持つ大胆で輝かしい作品。しかし多くの指揮者が取り上げる第4,7,8,9番と比べると、第1,2,3,6番というのは、まだまだ知り尽くされていない作品でもあります。ティーレマンも若い頃には実演に接する機会もなく、最初に第6番の演奏を聴いたのは、ムーティ指揮ベルリン・フィルだといいます。現在「ブルックナー指揮者」ともいわれるティーレマンでも、第6番の交響曲の演奏頻度多くはなく、今回改めてウィーン・フィルと作品を掘り下げることは、自身の発見の旅でもあったと語っています。
◆レコード芸術 2023年6月号 準特選盤
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https://www.youtube.com/watch?v=KJOtPnaS6eQ