★2023年ザルツブルク音楽祭ライヴ。フランスの気鋭指揮者マキシム・パスカルとウィーン・フィルによるマルティヌーのオペラ《ギリシャ受難劇》の映像がリリースされます。『その男ゾルバ』などで知られる現代ギリシャを代表する作家で詩人、思想家であるニコス・カザンザキスの『キリストは再び十字架にかけられる』を原作とし、マルティヌー自ら台本を手がけた作品。マルティヌーの死後1961年にチューリヒで初演された際の版を用いての上演です。
このオペラは、トルコ人に支配されながらも平和に暮らすギリシャ人と土地を追われたギリシャ人難民たちとの争いの物語。よく知られた聖書の一節、「汝の隣人を愛せよ」。イエスの時代から二千年が経った現在、世界はますます多様化し、情報化が進んだゆえに隣の人の価値観が自分と異なることが顕在化することが多くなり、人々の間に不寛容を生みつつあります。社会的な問題提起を、オペラを通して行うことを得意とする演出家サイモン・ストーンは、この現代社会における様々な不寛容や分断を、本作を通じて表現しようとしています。
物語はトルコ人に支配されたギリシャの山村が舞台。復活祭の日、グリゴリス司祭は次の年の復活祭で上演する受難劇のための村人たちの配役を発表した。キリスト、ペテロ、マグダラのマリアなど、役を与えられた村人は一年間役にふさわしい振る舞いを求められます。そこに、トルコ人によって略奪された村からのギリシャ人難民たちが町の広場にやって来て保護を求めます。しかし、自分のことしか考えない大多数の村民によって難民たちは拒否されてしまいます。村で上演される受難劇の役柄と実際に目の前で起きている難民たちの問題2つの面から物語が進行し、いま迫り来る問題が彼らの気持ちを引き上げて受難劇での役柄がのようにゆっくりと彼らを変えてゆくのです。しかし最後は難民たちを助けようと目覚めたキリスト役のマノリオスが、受難劇さながらに殺されてしまいます。マノリオスの死によって生きる力を失った難民たちは、神への言葉を歌いながら、去って行きます。
トレイラーはこちら→
https://www.youtube.com/watch?v=ASf01oBaCro