★ザルツブルク音楽祭のニュー・ヒロイン、リトアニア出身のドラマティック・ソプラノ、アスミク・グリゴリアン。2017年《ヴォツェック》のマリー役で注目を集め、その後《サロメ》《エレクトラ》、そして昨年はプッチーニの「三部作」で3役をひとりで歌い上げ話題となり、今やザルツブルク音楽祭に欠かせない存在であります。
そして今回映像としてリリースされるのは、2023年の音楽祭のハイライトであった、クシシュトフ・ワルリコフスキ演出による《マクベス》。グリゴリアンはマクベス夫人役で登場し、圧倒的な存在感を放っています。
シェイクスピア劇に基づくヴェルディのオペラは本作《マクベス》、《オテロ》そして《ファルスタッフ》の3作であり、そのどれもが当時のオペラの慣習を破った画期的な作品であり、特にヴェルディによるシェイクスピア作品第1弾の《マクベス》は音楽面でも初期の傑作として名高い名作です。シェイクスピアの戯曲『マクベス』は、権力のために罪を犯した人間の悲劇を描いています。主人公のマクベスは、「いずれ王になる」という魔女の予言と妻にそそのかされ、国王ダンカンを暗殺し、スコットランドの王位を手に入れます。王位に目がくらんだのはマクベスだけではなく、むしろマクベス夫人の方が野心に満ちており、オペラの中でも印象的なアリアが配置され、それぞれにグリゴリアンは圧巻の歌唱を披露しています。第2幕の王妃となったマクベス夫人が歌う「乾杯の歌」はドラマティックなコロラトゥーラを聴かせ、そして第4幕の「夢遊病の歌」は緊迫感漂う悪魔的な歌声で惹きこまれます。豊かな表現力に加えてグリゴリアンの高い演技力にも脱帽。そしてタイトルロールのヴラジスラフ・スリムスキーも力強く野蛮な王を熱演、またヴェルザー=メストの代役として急遽指揮台に立ったフィリップ・ジョルダンも見事な演奏を聴かせています。クシシュトフ・ワルリコフスキの冷え冷えとした空気の漂う演出は、原作の重苦しい雰囲気と権力を得ようとする人間の愚かさをあぶりだしているように感じます。
トレイラーはこちら→
https://www.youtube.com/watch?v=yj15czO1qVo