★1994年イタリア生まれのピアニスト、フランチェスコ・トロペアによるバッハの鍵盤楽器のためのソナタ集。なかには偽作も含まれるとされるこれらの楽曲をモダン・ピアノ演奏で網羅しているだけでも大変珍しいアルバムですが、演奏面でも「ピアノによるバッハ」の新時代を思わせる、まばゆいほとばしりを感じさせます。
★若きバッハの残したこれらのソナタはどれも実験精神にあふれ、単純な構造ながら時にいびつで、本能的な勢いがあり、独自の世界を貫く強さを持っている音楽。ラインケンの『音楽の園』(2つのヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ集)からの編曲でも積極的に音を加え鍵盤作品としての完成度を高めることに力を入れており、先人から学びつつも自身の新たな世界を打ち立てんとする気概に満ちています。アルバム全体を通してイタリア風の華麗かつ即興的な要素が盛り込まれており、後年の『イタリア協奏曲』BWV971へと続く流れが見えてくるのも興味深いポイント。無伴奏ヴァイオリン・ソナタからの編曲やカッコウの鳴き声を用いたフーガをもつBWV963は作品としての聴き応えもばっちり。
★トロペアは音楽院で即興演奏も本格的に学んだピアニスト。バッハの譜面から即興的・装飾的パッセージを自然と引き出し、瑞々しく奏でています。またバッハの愛したクラヴィコードを意識したという、繊細なタッチとペダリングによる音楽のしなやかさにも注目。「ピアノによるバッハ」については、ソコロフとリヒテルから大きな影響を受けたと語っています。新しい世代のバッハをお楽しみください。
【動画】BWV964より アダージョ→
https://www.youtube.com/watch?v=xE6XEPnujj4